第2回 「企業病院で働いて感じること」

松下記念病院 臨床検査科
西原 佑昇 先生 (医学部保健学科第10期生)

私が勤める松下記念病院は、松下電器の創業主である松下幸之助氏の本意により、元は従業員の健康維持のために生まれ、現在は大阪府の守口市門真市を中心に据える北河内地区で、地域住民に向けた一般病院としても開放されています。

通常、病院臨床検査技師は病院に就職するというイメージを持たれますが、私の場合パナソニック健康保険組合に就職したという形になります。松下記念病院は健保組織の中で一事業所として存在し、このため企業色が随所にみられる環境にあります。私が就職した2008年は、あのリーマンショックの年で、世界が大不況の波を経験しました。当院も母体企業からの影響を大きく受け、原価管理をはじめとする経営的感覚の必要性を、私も入社間もなく意識したことを覚えています。このように、母体企業を通じて、ある意味で世界を身近に感じることができます。さらにパナソニックグループの一員という観点から、様々な組合活動を通じて社会人としての感性を磨くことができます。私自身も組合執行委員として活動し、病院経営や労働環境等について経営陣と熱い議論を交わす日々も送っています。組合員としての多くの活動は皆に均等に与えられ、そこから医療の枠を超えた社会性を学び、社会人としての深みを得られることは、企業病院、特に松下記念病院ならではかもしれません。ではここから、本業の検査技師についてお話したいと思います。

現在臨床検査技師10年目を迎えましたが、この間様々な業務を経験しました。一般検査、生化学免疫検査、そして血液検査、さらには神経生理分野の神経伝導速度検査や術中脳波検査も担当しました。また院内の糖尿病チームに参加し、現在も日本糖尿病療養指導士CDEJとして個人指導と集団指導を行っています。後半の4年間は血液検査を軸としましたが、昨年度に病理検査へ異動となるなど、慌しく今後の展望も未だ不透明といえそうです。さらに外部活動にも積極的に参加しておりまして、大阪府臨床検査技師会の血液検査部門とシステム管理部門の班員としても活動しています。部会では多くの先輩方に鍛えられ、学会発表や講演など人前で話す機会も多く頂きました。その甲斐もあってか、2016年度近畿支部医学検査学会学術奨励賞、2017年度日本検査血液学会学術賞を受賞することができました。受賞内容を簡単に紹介しますと、前者は、新薬の奏効により検査値に大幅な変動をきたした難治性血液疾患を症例に、検査値の精度保証の観点から薬剤情報の重要性を報告したものです。後者は、骨髄胃形成症候群MSDという血液疾患について、形態学的異形成を伴う細胞の定量評価と、そこから算出するMDSの診断精度を自動で行う専用システムを、Excel VBAによるプログラミングで独自開発し、業務に取りこんだ内容をまとめたものです。このように日常業務から外部活動まで、非常に多くの経験をできたことはともて幸運で、ある意味自由にさせて頂いていけるのは、これもまた企業病院ならではの自由度・雰囲気によるものなのかもしれません。

これから検査技師の道を選ぶ方は、病院組織の中でその医療の質を決定づける重要な役割を担います。検査技師は縁の下の力持ちと表現されがちですが、私自身は、特に自分の専門分野では積極的に臨床医とコンタクトをとり、時にはディスカッションし、臨床医の右腕的な存在でありたいと考えています。医師との距離感は病院の規模にもよるかもしれませんが、信頼感の醸成は技師の積極的な態度から生まれると信じています。是非皆さんも積極的に、検査技師の存在意義を、その価値を高めていってほしいと思います。

幸いにして、当院検査科は神戸大学出身者が増えました。これは神大出身者による多方面での活躍が評価されているからです。皆さんも活躍できる素質は十分に持ち合わせていますが、素質を開花させるためには自分自身の実力はもちろんのこと、周りのサポートも時には必要です。これには人脈形成が重要で、社会においては必須の能力ともいえます。ですから、臨床検査技師として、社会人として、色んな経験を積むことを私は勧めたいと思います。私は企業病院に勤め、その特性から様々な職種の方と出会い、色んな考え方、感性に触れました。さらに技師としても多くの活動に参加でき、これによって得た知識や人脈は、今後の人生に確実にプラスになるものばかりです。皆さんもこれから是非、視野を広げて頑張ってください。私も皆さんとお会いできる機会があれば、そこからまた皆さんの世界が広がる一助にもなりたいと思います。それでは後輩の活躍を心より期待しています。